任意後見で老後の安心!
1 後見人が必要?
誰でも年齢を重ねれば、体力が弱り、人の助けを借りなければ生活できない方が増えます。しかし、体力が弱り、寝たきりになってしまった方でも、一定の判断能力を保ってさえいれば、代理人を依頼するなどして、自分の財産を処分したり、新たに財産を購入したりというような契約(法律行為)を行うことが可能です。
ですが、中には、年齢とともに身体ばかりでなく、知的能力も衰え、正常な判断能力を保てなくなる方がおられます。
もしその方の判断能力が法定のレベルに達していないと判断された場合、その方は、たとえ代理人を通じても、自分の財産を処分することができなくなってしまいます。
財産の処分だけではありません。銀行取引その他収支金の管理や、介護、福祉などに関わる行政上の手続きを行うことも不可能と判定されてしまいます。
このような方には、後見人を付けることが法律上要求されることになります。
2 法定後見(家庭裁判所に後見人を選んでもらう方法)について
後見人を付けるためには、本人や親族などが家庭裁判所に後見開始の申立てをして、裁判所に後見人を選任してもらう方法があります(法定後見)。
しかし、当のご本人が正常な判断能力を失ってしまってから、後見人の手続きをするには、いろいろと難しい問題があると言われています。
家庭裁判所は、近時、親族の方が後見人候補者として名乗り出てている場合でも、その親族ではなく、弁護士、司法書士、行政書士などの専門家を第三者として後見人に選任する場合が多いと言われています。また、一定額以上の財産のある方の場合、裁判所から財産を銀行に信託(後見制度支援信託)に出すよう勧められることが多いとも言われています。
裁判所が選任した後見人による不祥事の発生を防止するための工夫と思われますが、後見を受ける側、あるいはその方の親族の側から見ると、事情をよく知っている人、本人の生き方に理解がある人を後見人にできないなどかなり自由度が失われるという側面があることも否定できません。
専門職が後見人に選任された場合、一定額の報酬を財産から支払い続けなければならないといったことや、信託に伴う各種手数料の負担等コスト面の問題があることも、無視できません。
3 未来の後見人を自分で選べる!任意後見契約
では、自分が正常な判断能力を失う前に、その後見人をあらかじめ(判断能力を失う前に!)自分で選んでおくことはできないでしょうか。
公証役場で任意後見契約を締結すれば、それができます。
もちろん、十分な判断能力を保ったまま、一生を終えられる方も相当数おられます。しかし、今後、十分な判断能力を保ったままで一生を終えられるという保証があるでしょうか。自分が十分な判断能力を失ってしまったときに備えておく必要はないでしょうか。判断能力を失ってしまってから、2で述べた法定後見の制度を利用した場合、それなりのコストがかかることにも留意しなければならないでしょう。
十分な判断能力を保っているときに、あらかじめ任意後見契約をしておけば、裁判所が選任する専門的な第三者ではなく、自分の身近な人、日頃から交流があって信頼できる人を、 自分の将来の後見人候補者として選ぶことができます。
契約の上で、将来後見人になるときは、こんな方針でやってもらいたいなどと条件をつけることも可能です。 任意後見が開始したときの報酬についても、無報酬を含め、契約で自由に決定できることも大きな魅力です。
任意後見契約は、法律上、公証人の面前で 作成しなければ効力がありません。
作成のためには、印鑑証明書などの必要な書類もあります。
ぜひ公証役場に御相談ください。
4 移行型について
任意後見契約は、将来判断能力を失ったときに備え、あらかじめ後見人を決めておくための契約ですから、直ぐに効力を生じることはありません。
しかし、自分は、まだ十分な判断能力を持ってはいるが、財産管理を全部自分でやるには体力、気力の面で不安があるので、今から、自分の代理人として行動してもらえる人を確保しておきたいという方が多数おられます。
そこで、任意後見契約公正証書を作成するに当たっては、任意後見契約と同時に単純な財産管理等委任契約を締結し、任意後見人候補者に自分の代理人として直ぐに行動してもらえるようにすることが多いのです。この委任契約が付いたタイプのものは移行型任意後見契約と呼ばれています。
5 手数料について
任意後見契約を公証役場で締結する際の手数料について説明します。
公証役場で公正証書を作成する際の手数料は、基本的に、契約の目的物の価額(本ホームページ「手数料について」参照)によって算定されますが、任意後見契約については、契約の目的物の価額が一律に算定不能として取り扱われることになっています(後出の財産管理等委任契約と異なり、報酬の額等は関係ありません)。この結果、任意後見契約の基本的な手数料は、1万1000円となります。
この基本的な手数料に公正証書の枚数1枚につき250円という計算で加算される枚数加算(4枚を超えた場合に1枚250円として加算)、正本代や謄本代(1枚250円として計算)、任意後見契約の登記手数料などが加算されます。
例えば、枚数10枚程度の任意後見契約公正証書の場合、基本的な手数料1万1000円に
⑴ 枚数加算 250円×(10枚ー4枚)=1500円
⑵ 正本代 250円×10枚=2500円
⑶ 謄本代 250円×10枚=2500円
⑷ 謄本代(登記用) 250円×10枚=2500円
⑸ 登記手数料等 4510円
が加算され、これらを合計した手数料は、2万4510円となります。
移行型の場合、財産管理等委任契約の基本的な手数料がこれに加算されます。期間の定めのない継続的な委任契約であれば、10年間における所定報酬の総額を基準として、その倍額が契約の目的物の価額とされます(当事者双方が互いに履行義務を負う双務契約ですので、契約の目的物の価額は、10年間における報酬総額の倍額となります)。報酬の定めがなければ、契約の目的物の価額が算定不能として取り扱われ、 基本的な手数料の額が1万1000円となります。
この結果、枚数17枚程度の移行型任意後見契約で、財産管理等委任契約に報酬の定めがないものであれば、4万2510円が手数料の総額になります。