信託も公正証書で!
信託ってなに…???
どこかの信託銀行のTVコマーシャルではありませんが、信託と聞いても、「信託?何だそれ…??」という方も多いかもしれません。
信託とは「信じて託すること…」
これだけでは、何のことやらわかりませんが、この信託の仕組みを使うことによって、高令の方、障がいのある方など財産管理に不安のある方、今後、財産管理が困難になることが予想される方などのために、特定の財産を信託財産とした上、信託財産がその方の福祉、利益のために管理・処分されるような枠組みを作ることができます。
併せて、その方が他界された後の処置について定めることによって、信託を通じてスムースな財産承継を実現することもできるのです。
信託の基本的な枠組みには、当事者として、委託者 受託者 受益者 の三者が登場します。
委託者は、信託をする主体であり、受託者は、委託者から財産の信託を受け、受益者のため、その財産の管理・処分を行う立場の人です。受益者は、その財産の管理・処分による利益を享受する立場にある人です。後述のように、委託者が受益者を兼ねる場合もあります。
信託契約について
信託は、契約または遺言によって枠組み作りをすることができますが、ここでは、まず、信託契約に即して説明します。契約、遺言以外に、信託宣言による自己信託の類型がありますが、ここでは、説明を省略します。
信託契約は、委託者と受託者の合意によって成立します。信託が成立すると,委託者から受託者に対し、対象財産の所有権が移転するという効果が生じます(受託者名義の担保権を設定する場合もあります)。
所有権の移転を受けた受託者は、信託契約において定められた信託の目的に沿って信託財産を管理・処分し、これによる収益等を受益者に交付すべきことが定められます。
信託の効力が生じると、不動産については、法務局で信託を原因とする所有権移転登記等をすることができますし、金銭については、信託銀行その他の金融機関で信託口口座等を開設することができます。
所有権移転後、受益者の生活資金の確保など信託で定められた目的を達成するため、受託者がその財産の管理・処分を行い、賃料収入や運用益、売却益などの管理・処分による収益を受益者に交付する義務を負うことになります。
目的の達成や期間の満了などによって契約が終了した際の財産の帰属先についても、信託契約において定められます。
遺言信託、遺言代用信託について
これに対し、自分が生きている間は、信託による所有権の移転までは行わず、自分の死後に信託の効力が生ずるようにしたいという場合には、遺言信託という方法を選択することができます。
遺言信託は、委託者の単独行為ですので、遺言公正証書の要件が充足されれば成立し、委託者の死後にはじめて信託の仕組みが動き始めることになります。
次に、遺言ではなく、契約による場合でも、受益者の交代の仕組みを導入することによって、遺言と同様の効果を持たせることができます。契約により、当初の受益者を定め、当初の受益者が死亡した後、第2次的に、受益者の地位を取得する「新たな受益者」をあらかじめ定めておくというやり方です。
また、委託者と受益者は、信託の仕組み上、あくまで別の当事者ですが、委託者は、自らが受益者を兼ねることができますので、財産の管理・処分を受託者に委ねるとともに、その収益を自ら取得することもできます。当面、委託者が受益者を兼ね、収益を自ら取得することとした上で、第二次的に、委託者兼受益者(又は別の当初受益者)の死後は、自分の子どもや配偶者を「新たな受益者」として、新たな受益者のため財産を管理・処分することとすることも可能です。
これらの当初受益者の死後を想定した二次的信託は、遺言と同じような効果がありますので、遺言代用信託と呼ばれています。
遺言信託と遺言代用信託。
紛らわしいですが、遺言信託は、委託者の死亡をまってはじめて信託の仕組みが動き始めるのに対し、遺言代用信託は、上記の設例に即して説明すれば、当面、当初の受益者(委託者が兼ねるか又は委託者とは別の受益者)のために仕組みが動き始め、当初の受益者の死後、「新たな受益者」のために仕組みが再稼働するものだと区別してもらえばOKです。
民事(家族)信託と後見制度
信託の仕組みの中で、信託財産の所有者として、その管理・処分を行い、収益を受益者に交付するという中核的な役割を役割を担っているのは受託者です。
その受託者の役割を担う受け皿として、信託銀行、信託会社などの専門業者があります。しかし、最近では、家族・親族間で信託契約が結ばれ、家族・親族が受託者となることも増加しており、これらは、民事信託、家族信託などと呼ばれています。
ところで、信託契約については、委託者と受託者との間の契約の締結によって効力が生じるとされていますので、公正証書によることが成立要件ではありません。したがって、公証人の関与なしでも、信託は成立します。
しかし、多くの信託が目的としている高令者や障がい者の生活の維持、安定、福祉などに関しては、信託ばかりでなく、法定後見、任意後見など公的な色彩を帯びた別個の制度が存在し、利用されています。
これら別個の制度にも、もちろんそれぞれ利害得失がありますし、信託にも、後述のとおり、利害得失があります。ですので、別個の制度を利用する場合と信託を利用する場合、それぞれの利害得失について、よく理解した上でないと、信託という選択が本当に適切かどうか判断することはできないはずです。家族の福祉、幸福がかかっているのですから、生半可な知識で安易に選択することはできないはずです。
信託は、高齢者・障がい者等受益者のための財産の管理・処分のみをカバーしており、任意後見をはじめとする後見制度と異なり、本人の心身の状況の把握・管理や療養看護、介護の領域に立ち入ることはできません。
より具体的にいえば、受託者には、所有権の移転という行為を通じて、財産を管理・処分する権限が与えられるのみで、福祉や行政上の手続きにおいて、受益者を代理する権限も義務もないことに注意すべきでしょう。
さらに、注意すべきは、後見制度と異なり、家族信託の場合は、権限の行使につき公的な監督の仕組みが最初から用意されているわけではないということです。信託には、受託者に所有権を移転するという強力な効果がありますので、この点については、特に注意が必要でしょう。
信託を利用しようとするからには、これらのことを十分理解した上で、具体的な信託の設計に当たる必要があります。信託法では、「信託監督人」、「受益者代理人」など受益者保護のためのメニューも用意されていますので、これらの利用も有効な選択肢の一つとなるでしょう。