遺言は、公正証書で!
1 相続の悩み…
相続のことでお悩みではありませんか。
同じ法律上の相続人(法定相続人)といっても、老後の面倒、介護など何かと気を配ってくれる身近で大切な人もいれば、縁の薄くなってしまった人もあるでしょう。人によっては、名前もよく知らず、会ったこともないような親戚や、いろいろないきさつで気まずい仲になってしまった人が法定相続人になってしまうケースもあります。
たとえば、子供のいない夫婦の場合、ご夫婦それぞれの存命の両親や存命の兄弟姉妹が各自の法定相続人となり、兄弟姉妹が先に亡くなっていた場合には、その子供(甥姪)が全部法定相続人となります。
子供のいる夫婦の場合、存命の配偶者や子供が相続人となりますので、相続人間の関係は、より近くなりますが、子供であっても、親との関係や兄弟相互の関係は、その立場や相互の感情によって様々な場合が多いでしょう。
普段仲良く付き合っている子どもたちが相続人となるケースであっても、親と同居している子、同居していない子、将来親の介護を引き受けることを予定している子、そうでない子など、その立場によって、相続に対する思いは、様々でしょう。
仲の良い自分の家族に限って相続争いなど起きるわけがないとおっしゃる方も多いのですが、家族のあり方も、親が存命のときとそうでないときとでは大きく変わってしまいます。
財産がたくさんあるわけでもないので、相続争いなど起きるわけがないとおっしゃる方もたくさんおられます。
でも、裁判所の統計によると、家庭裁判所に持ち込まれる遺産分割事件の約3分の1は、遺産額1000万円以下の事件だそうで、遺産額5000万円以下まで含めると、遺産分割事件の8割近くにまでなってしまうのだそうです。
財産がたくさんあり、相続人どうしもあまり仲が良くないというようなケースでは、亡くなる前にしっかり遺言をして対策をしている場合が多いのに対して、そうでないケースの場合には、遺言などの対策をとっていない場合が多いので、かえって争いになることが多いのだという指摘もあります。
昨今のコロナ感染の脅威なども考えると、早め早めに手を打っておくことが肝心ではないでしょうか。
2 もし遺言がないと…?
亡くなられた後、 もし遺言がなければ 、法律上、同一順位の相続人である限りは、同居や介護などの事情に関係なく、 他の相続人と 均等に 財産を相続する というのが原則です。
また、亡くなられた後、 もし遺言がなければ 、相続財産については、たとえその一部であったとしても、法律上 相続権のある人全員の同意 が得られない限り、名義を変更したり、預金を払い戻したりできなくなってしまいます。
この点については、相続法の改正により、特定の金融機関にある被相続人の預金残高のうち、払戻しを求める相続人の法定相続分の3分の1までは、遺言がなくても、1金融機関当たり150万円を上限として預金の払い戻しを受けることができるなど特例が認められるようになりました。しかし、これも、葬儀費用等の当面必要な出費を賄うことを目的としたあくまで限定的なものです。
法定相続人間で特に争いの種になることはないという場合でも、被相続人の死後、相続人全員がいちから集まって話合いをし、短期間で遺産分割協議をまとめ、印鑑証明書、実印を押した委任状を集めて名義変更の手続きをとるのは大変面倒なことです。
もともと争いの種などなかったはずなのに、遺産分割協議のため、いちから話し合いをしているうちに、ちょっとしたことから、感情的な行き違いが生じてしまい、それがもとで、最高裁まで争う深刻な訴訟沙汰になってしまったなどということも良く耳にします。
3 遺言公正証書の重大なメリットに注目!
しかし、 遺言をしておけば 、 その遺言の中で 原則として自由に
法定相続分と異なる財産の配分をすること
特定の相続人に特定の財産を相続させること
相続人ではない人に財産を遺贈すること
特定の相続人に特定の財産を相続させること
相続人ではない人に財産を遺贈すること
などが可能となります。
遺言によって親が指針を示しておくことにより、紛争を未然に防止できるという効果も期待できるでしょう。
そして、遺言によって特定の財産を相続した人が、名義変更、払い戻しなどの手続きをとる場合にも、遺言特に遺言公正証書があれば、他の相続人の同意が不要となるなど格段に有利な取扱いを受けることができます。名義変更等の手続に当たって、他の相続人の委任状や印鑑証明が不要となりますので、簡単便利でもあります。
しかし、原則として自由に遺言で相続の内容を決めることができるといっても、ケースによっては、法律上の制約(生前贈与の取り扱い、遺留分等)を受けることがあります。
公的な立場にある法律の専門家である公証人に御相談いただければ、 法律上の制約などについて正しく理解しながら、ご自分の意思を遺言公正証書に適切に反映することができます。
遺言公正証書を作る場合、公証人の面前で手続を行うことが必要、証人二人(公証役場で紹介可能)の立会が必要など厳格なルールがあります。これは、一見面倒とも思われがちですが、いったん厳格な手続きで公正証書が作成されれば、後になって効力が争われることはまれで、万一 争われても法律の専門家が作った公正証書の信用力は絶大です。
さらに、自筆証書遺言の場合、相続開始後遅滞なく遺言の保管者が家庭裁判所で「検認」という手続で遺言書の確認を受ける必要がありますが、公正証書遺言の場合、この検認は必要ありませんので、相続人等にその手間をかけることもありません。
自筆証書遺言の法務局保管制度については、次項をご覧ください。
出来上がった公正証書の原本は、公証役場で厳重に保管された上、公証人会で集中的にバックアップの措置も施されますので、この点も安心です。
公正証書で遺言をすること、これをぜひ御検討ください!
4 法務局保管の自筆証書遺言と公正証書遺言の違いについて
「法務局における遺言書の保管等に関する法律(以下「保管法」という)」により、自分の自筆証書遺言を法務局で保管してもらう制度が創設され、令和2年7月10日から制度運用が開始されています。この法務局保管の自筆証書遺言については、家庭裁判所の検認手続を要しない(保管法11条)とされていて、この点は、相続開始後遅滞なく家庭裁判所の検認手続を要するとされている従来の自筆証書遺言と比較して大きなメリットであることは間違いありません。
それでは、公正証書遺言と比較するとどうでしょうか。検認手続を要しないという点は同じです。
しかし、遺言者から自筆証書遺言の保管を求められた法務局は、自筆証書が全文自筆で書かれていて日付や署名捺印があるかなど形式面のチェックは行いますが、遺言書の法的効力など実質面の審査を行うことはありません。法務局が保管しているからといって法的な効力が保証されているわけではないのです。
公正証書遺言は、法律の専門家である公証人が法的効力を十分吟味した上で作成します。この点は、自筆証書の法務局保管制度とは大きく違います。
次に、自筆証書遺言の保管を申請するに当たっては、遺言者本人が必ず法務局に出頭しなければなりません。公正証書遺言の場合、原則は、本人が公証役場に出頭して作成しますが、出頭できない場合には、公証人が御自宅等に出張して作成することが認められています。この点も大きく違います。
さらに、自筆証書遺言は、その全文、日付及び氏名を遺言者が手書きで書かなければならないと定められておりますが、公正証書遺言は、公証人が案文を起案しますので、遺言者は、内容を確認して署名押印するだけでいいのです。高齢によって握力が低下し、署名することができないという方も多数おられますが、遺言者が署名できない場合には、公証人がその事由を付記して署名に代えることも法律上認められています。
遺言者が亡くなられ、相続が開始した後の手続も、自筆証書と公正証書では大きな違いがあります。
法務局保管の自筆証書遺言で財産を取得した相続人等が相続による所有権移転登記を申請したり、金融資産の払戻しや名義変更等を請求するには、保管法務局から、遺言書情報証明書を取得して法務局や金融機関に提示する必要があるのですが、この遺言書情報証明書を取得するに当たっては、自分ばかりでなく、遺言者の全ての相続人の住所氏名を明らかにする(原)戸籍謄本、住民票等の資料を添付する必要があります(保管法9条1項、4項、法務局における遺言書の保管等に関する省令34条1項)。
相続人等からの請求に応じて遺言情報証明書を発行した法務局は、全相続人等に対して遺言書を保管している旨通知するとされている(保管法9条5項)ことから、このような取扱いとなるのです。
しかし、戸籍謄本、住民票を取得するには、いうまでもなく、記載されている人の全面的な協力を得る必要があります。これは、事案によっては、検認手続以上の大きな負担となるものと思われます。
公正証書の場合、公正証書の正本等を法務局や金融機関に提示することにより、簡便な手続で遺言書の執行を行うことができます。この点も、法務局保管の自筆証書遺言と公正証書との大きな違いです。
自筆証書遺言の法務局保管制度が登場したおかげで、自筆証書遺言の使い勝手が向上したことは間違いありません。しかし、自筆証書を公正証書遺言と比較した場合、その相違には依然として大きなものがあると考えるほかないと思います。
5 遺言公正証書作成の手数料、紹介証人への謝礼について
法律行為に関する公正証書作成の手数料は、原則として、その法律行為の目的の価額の区分に応じて基本的な手数料が定められています。
具体的には、目的の価額が
⑴ 100万円以下 5,000円
⑵ 100万円超200万円以下 7,000円
⑶ 200万円超500万円以下 11,000円
⑷ 500万円超1000万円以下 17,000円
⑸ 1000万円超3000万以下 23,000円
⑹ 3000万円超5000万円以下 29,000円
⑺ 5000万円超1億円以下 43,000円
⑻ 1億円超3億円以下
43,000円に超過額5000万までごとに13,000円を加算した金額
⑼ 3億円超10億円以下
95,000円に超過額5000万までごとに11,000円を加算した金額
⑽ 10億円超
249,000円に超過額5000万までごとに8000円を加算した金額
と定められています。
遺言の場合、目的の価額は、原則として遺言の対象財産の価額で決められます。不動産については固定資産評価額、預貯金については現在の残高、株式等については時価が目安となります。相続させる(または遺贈する)という行為ごとに基本的な手数料額が算出され、遺言の内容が複数の行為にわたるときは、行為ごとに算出された手数料額を合算して遺言全体の手数料が計算されます。
たとえば、固定資産評価額1000万の不動産を長男に、残高500万の預金を二男にという遺言をする場合を例に説明します。
⑴ 長男に1000万の価額の財産を相続させるという遺言が17,000円
⑵ 二男に500万の価額の財産を相続させるという遺言が11,000円
⑴⑵の合計額28,000円が基本的手数料となります。仮に遺言の内容が⑴のみという場合には、17,000円が基本的な手数料です。
このほか祭祀主宰者の指定、親権者の指定などを遺言で行う場合には、価額が算定不能として取り扱われることから、行為1個当たり、1万1000円の手数料が加算となります。
遺言の目的の価額が総額で1億円を超えないときは、この基本的な手数料に11,000円を加算するとされており、これを遺言加算といいます。
なお、遺言に限らず、公正証書の原本は、所定の期間、公証役場で保管されますが、当事者の方から、保管料をいただくことは一切ありません。
いかがでしょうか。公正証書作成手数料は高いというイメージが社会に流布している感がありますが、実際に説明をきいてみたら、そうでもなかったとおっしゃる方が多いのも事実です。
遺言内容と、相続・遺贈する財産の評価額が分かれば、手数料額を概算できます。概算結果をきいてから、公正証書作成を決断されるのが賢明な御判断かもしれません。
次に、遺言公正証書作成に立ち会ってもらう2名の証人に対する謝礼について説明します。証人になることができるのは、推定相続人や受遺者又はこれらの人の配偶者や直系血族以外の方です。公証人や公証人の配偶者、四親等内の親族、書記等も証人になることができません。
このような条件を満たす人を公証役場に連れてきていただけば、遺言公正証書作成に立ち会ってもらえるのですが、遺言というプライバシーに関することに縁者でもない人に立ち会ってもらうには抵抗感がある、赤の他人にそういうことは頼みにくいという方が多いのも現実です。
適当な証人の心当たりがないという場合には、当公証役場に証人の紹介をご依頼ください。当公証役場では、証人立会1人1回当たり6000円の謝礼を支払っていただくという条件で、証人の紹介をしております。御夫妻が同一機会に遺言公正証書を作成される場合には、8000円の謝礼で御夫妻双方の作成に立ち会ってもらっております。証人は二人必要ですので、二人とも紹介してもらいたいという場合には、上記の金額の倍額が必要な謝礼の金額となります。詳細は、当公証役場までお問い合わせください。